坂崎さんのことは、張契から3代ずっと言い伝えられています。それはつまり、順泰の祖父、阿狗仔の日本人雇い主です。その方がいなければ、順泰の祖母がいなかったでしょう。

阿狗仔と同じ大邸宅で仕事をする満妹。彼女はこのお家で、坂崎さん夫婦の赤ん坊の世話をするお手伝いさんです。色白でむっちりした体型が選ばれた決め手だそうです。阿狗仔が二十歳の時、坂崎さん夫婦は満妹との縁談を勧めました。勿論、坂崎さん夫婦は閩南語(ミンナン語)を話す人と客家語(ハッカ語)を話す人の違いが分からず、ただ2人の若者はとても似合っていると思っていたのです。

閩南人と客家人は通婚しない慣習は当時の中流階級では重視されていたが、貧しい身の阿狗仔はそんな決まりなんて関係ありませんでした。ましてや、80年前の結婚は仲人の顔と一家の長である父親の同意がそのカギです。今の人から見ると「想像しにくい」結婚事情は当時ではごく普通にありました。両親が傍にいない彼はボスが選んでくれた相手だから、間違いはないだろうと心の中で呟き、満妹を妻として迎えました。