夕食後、順泰はいつも通り、お爺さんにくっついて、ベッドの横でタバコを吸っているお爺さんをじっと見ているうちに眠りに落ちそうになりました。

まだ遊びたい順泰は三輪車を押して庭沿いの廊下に来たところで、渓流を隔てた対岸の山の上に明るく光っている月に目を引かれました。黄色い月、黒っぽい山、階段を降りるように視線は徐々に下へ移すと、奇妙な光景が現れました。「あれ、あれは何?」部屋へ走り戻った順泰はお爺さんに突如聞きました。お爺さんは何も聞こえなかったかのように、反応はなかったので、順泰はもう一度聞いてみました。「向こうの鹿の養殖場の山にずらりと青く光っているのは何?」今度は順泰が話し終わったとたんに、コインを入れると動き出す遊具のように、お爺さんはすぐさま、順泰の手を引いて足早に庭沿いの廊下へ向かい、目を細めて鹿の養殖場の方へ一目眺めました。そしたら、またすぐ順泰の頭を自分の腰辺りに寄せ、2人で体を180度回転して、逃げるように部屋に入りました。「鬼火だ。見るな」お爺さんはただそれだけ口にしました。

湿気の高い山間部では生死流転し、動物の死骸が散らばり、骨中のリンが空気に触れると燐火が発生しやすく、ガスコンロの青い火によく似ています。

しかし、民間の言い伝えは現代科学とは相容れないことがよくあります。「鬼火って何?」順泰は母親に聞きました。「無名の火と呼びなさい」死後の世界には恐怖と畏敬の念を持つ母親は、そのように順泰に教えました。「木には木の神様、山には山の神様がある。土地の神様の火は赤で、無名の火と同じ、髭がない。お日様や薪を燃やす火など、人間が見える火だけ、髭がある。」幼い頃の私は分かるようで、分からないようだったが、とにかく、母親の結論はお爺さんのと一緒、「あんなもの、見るな」。

母親は心配そうに眉尻が下がりました。「運勢の悪い人こそ、無名の火を見るのだよ」との言葉が喉につかえていました。不意に現れた不吉な予兆に思いを巡らし、ある女の話が頭をよぎりました。

ある日、母親は竹籠を背負い、天送埤から川床沿いに道を進み、帰宅途中に鹿の養殖場の山に住む女に会いました。あたりが薄暗くなってきたせいか、その女は急いで母親に告げました。「鹿の養殖場の方からお宅のある山を眺めると、鬼火が満遍なく光っているのが見えますよ」と。その話を聞いた母親は若干恥ずかしさと腹立たしさを覚え、そして王宝釧が粗末な家で帰らぬ夫を18年間待ち続ける悲惨な物語を思い出し、思わずここ辺鄙な地に嫁いだ自分と重ね合わせました。怒り心頭である母親は、自分たちが普通に暮らす場所が鬼火が蔓延る不浄の地と思われるなんて許せはしません。「鬼火は鬼火、うちはうち、お互いを妨害しません」その女に母親は毅然たる態度でこう返しました。

山の人間は、大自然に文句を言わない性格をとっくに身につけました。母親の今の怒りは煙のように消え、ヨモギの葉っぱ数枚摘んできてお湯の入った洗面器に入れ、順泰を呼んできました。「順泰、手足を洗いにきなさい」。葉っぱの浸かった水で息子の体全体を拭き取り、穢れがそれで消えてゆくように母親はこうしてようやく寄せていた眉をふっと緩めました。